マルコ5章には、会堂長ヤイロの娘と、12年間出血に苦しんだ女性の二つの物語が描かれています。一見別々に見えるこの出来事は、サンドイッチのように重ねられ、共通するテーマを浮き彫りにしています。それは「人間の力ではどうにもならない絶望の中で、ただ信仰によって救いと新しい命が与えられる」ということです。
ヤイロは瀕死の娘を前に無力さを覚え、体面を捨ててイエスにひれ伏しました。一方、出血の女性は、社会的にも宗教的にも孤立し、財産も失った絶望の中にありました。しかし彼女は「この方の衣にでも触れれば」と信じ、行動しました。その小さな一歩が、癒しと新しい人生の始まりとなりました。
ヤイロは、娘の死の報せを受けて絶望しかけますが、イエスは「恐れることはない。ただ信じなさい」と語られました。その言葉通り、少女は「タリタ・クム(起きなさい)」と呼びかけられ、死から新しい命へと生き返ります。イエスは「汚れ」や「死」をも超えて、真の命を与える方であることを示されました。
私たちの人生にも、病や孤独、経済的な不安や死の恐れなど、人間の力では越えられない壁があります。しかしその時こそ、主は「恐れることはない。ただ信じなさい」と私たちに語りかけてくださいます。信仰は大きな力ではなく、小さな一歩から始まります。祈ること、聖書を開くこと、誰かに助けを求めること――その小さな行動を主は喜ばれ、希望へと導かれます。
今日もイエスの声に応えましょう。「恐れないで、ただ信じなさい」。その招きに応えるとき、私たちにも新しい命と生きる力が与えられるのです。 〔牧師 細井留美〕